Moonshot AIは10月23日、100万トークンの文脈を扱う3兆パラメーター級のオープンウェイトモデル「Kimi K3.1 Pro」を発表した。モデル自体は同日から使えるが、重みの配布は11月4日まで待つことになる。
MoonshotがKimi K3.1 Proで示したもの
Kimi K3.1 ProはK3.1シリーズの最初のモデルで、同社は「これまでで最も能力の高い3兆パラメーター級のオープンウェイトモデル」と説明する。同じ日に、応答速度を2〜3倍に高めたKimi K3.1 Pro Highspeedも出した。
中身はKimi K3の後訓練版だ。後訓練とは、事前学習を終えたモデルに追加の学習を重ね、指示の理解や推論の精度を引き上げる工程を指す。Moonshot AIはこの段階に投じる計算量を大幅に増やし、数百の領域をまたぐ強化学習をまとめて回せるよう、学習の枠組みからサンドボックスの運用まで作り直したとしている。
今回の発表で目を引くのは、性能の伸びより「何を削ったか」の説明だ。サイバー攻撃に転用できる能力を意図的に抑え、その判断根拠を数字付きで公開している。オープンウェイトモデルを出す企業としては踏み込んだ開示である。
では、中身はどうなっているのか。
Kimi K3.1 Proの基本スペック
コンテキストウィンドウは100万トークン(1,048,576)。数百ページの資料を分割せずに一度に流し込める規模で、長い契約書やコードベース全体を対象にした作業に向く。
アーキテクチャはMixture-of-Experts(MoE)。総パラメーター数は2.8兆で、1トークンを処理するときに動くのは1040億個にあたる。巨大な知識を抱えながら、推論のたびに全部を動かさない設計だ。入力はテキストと画像、出力はテキストを扱う。
Kimi.com、Kimiのモバイルアプリ、Kimi Work、Kimi Code、Kimi APIのすべてで10月23日から利用できる。
ベンチマークはClaude Opus 5.5とGPT-6 Astraの間
同社の発表によると、Kimi K3.1 Proはコーディングエージェント向けのTerminal-Bench 4.0で65.7%を記録した。GPT-6 Astraの58.2%を上回り、Claude Opus 5.5の66.4%にはわずかに届かない。実際の端末作業を厳密なテストで採点する指標だけに、この並びは「最上位集団のすぐ後ろ」を意味する。
社内指標のKimi Code Bench 3.0 Long-horizonでは61.2%。前世代のKimi K3は55.95%だったので、5ポイント余りの改善になる。複数ステップの実行とツール操作をどれだけ崩さずに続けられるかを見るテストだ。
3D分野ではBenchCAD(多視点の描画からCADコードを生成する課題)で、ツール併用時に92.7%。Claude Opus 5.5は96.2%、GPT-6 Astraは95.9%で、ここでは先行を許した。財務文書の解析を測るOfficeQA Pro v2は64.4で、同社は最先端の水準だと主張している。
いずれもベンダー自身が公表した数値であり、第三者による追試はまだ出ていない。
コードと3D制作は「丸ごと任せる」方向へ
Kimi K3.1 Proが狙うのは、断片の補完ではなくプロジェクト単位の制作だ。Unity、Unreal Engine、Godotといったゲームエンジンを行き来しながら、ウェブ検索や3D生成を組み合わせて動くものを組み上げる。フロントエンドの画面、Three.jsのインタラクティブなシーン、3Dアセットまで、構図やタイポグラフィ、アニメーションの質を一段引き上げたという。
3Dモデリングでは、テキストの指示やスケッチ、参照画像から形状と比率、空間関係を読み取り、使えるデータとして出力する。BlenderやCADのスクリプトを自分で書いて実行するため、外部コネクターを用意しなくてもパラメトリックモデリングが回る。機械部品、建築模型、設定変更できる家具などが想定用途だ。
kimi.comとKimiアプリでは「3D Make」が使えるようになった。生成したモデルをブラウザ上で確認、編集し、3Dプリント用に書き出すか、動画やLive Photoとして共有できる。
長い作業を最後まで走らせるKimi K3.1 Pro
強化学習の効果がはっきり出た例として、同社は人体の解剖学モデル「human-atlas」を使った歩行シミュレーターの構築を挙げている。296の骨格要素と402の筋肉要素を持つオープンソースのモデルの上に、学習と評価のパイプラインを組み上げる課題だ。
167のミッションと420回の独立レビューを重ねる中で、モデルは実験結果を読み、問題を切り分け、歩行コントローラーを修正した。途中で報酬設計をいじるだけでは腕の動きが改善しないと判断すると、シミュレーターの力学を開ループで調べ、肩の筋肉のモーメントアーム計算にあった36カ所の誤りを特定して直した。
結果として、シミュレーション上の人体は数秒で崩れていた状態から、11.2秒間の連続した交互歩行に到達した。数値そのものより、失敗の原因を自分で探しにいく挙動が重要だ。長い作業を投げても、途中で諦めずに前提を疑えるかどうかが実務では効く。
サイバー能力をあえて削った理由
Moonshot AIは、Kimi K3.1 Proのサイバーセキュリティ能力を意図的に下げた。後訓練の計算量を増やすほど脆弱性研究の成績が上がる傾向を確認し、その原因が中間学習のコーパスと強化学習の環境に混ざっていたサイバー関連データだと突き止めた。オープンウェイト版では、両方の段階から該当データを除いている。
社内ベンチマークのxdev-bench-hardは、実在するソフトウェアの脆弱性を再現し、エージェントに攻撃コードの作成からサンドボックス内での任意コード実行までを求める。対策を施さなかったチェックポイントはpass@3で90.5%を解いた。最終版のKimi K3.1 Proは81.0%に落ちている。
同社はこの水準について、自社のパイプラインが生み出せる攻撃能力より低く、3カ月以上前から公開されている最先端のクローズドモデルにも及ばないと説明する。そのうえで、防御側が手元の環境でコードを監査できる利点を重視し、能力を徐々に広げる方針を示した。
Kimi APIの料金とHighspeed、11月4日の重み公開
Kimi APIの料金は、第三者サイトの掲載情報では入力が100万トークンあたり2ドル、出力が10ドル。キャッシュ済みの入力は0.20ドルで、Highspeedは入力4ドル、出力20ドルとされている。公式ブログは価格を明示していないため、契約前に最新の料金表を確認したい。
重みは11月4日までに公開される予定で、ライセンスの条件はその時点で示される見込みだ。今日から試すならAPIかKimiの各製品を使い、自前の環境で動かす計画があるなら、まず必要なGPUメモリと量子化の選択肢を洗っておくといい。100万トークンを扱うモデルを手元に置く敷居は、公開されてから現実味を帯びる。







