フランスのMistral AIが10月29日、1兆パラメータのMistral Large 4をオープンウェイトで公開した。10月6日からプレビューで動いていたモデルが、重みという形で外に出たことになる。
Mistral Large 4は何を出したのか
Mistral AIは2026年10月29日、フラッグシップの「Mistral Large 4」のオープンウェイト版を公開した。コードネームは「Le Chonk」で、フランス語の「太った猫」にあたる。プレビュー版は10月6日から動いており、今回出たのはその重みだ。
規模は総パラメータ1兆。疎な混合専門家(MoE)アーキテクチャを採り、推論時に働くのは約500億パラメータだ。VentureBeatは490億、プレビュー時の発表は520億で、数字は揃っていない。入力はテキストや画像に対応するが、出力はテキストだけになる。
オープンウェイトは重みだけを配る公開形態で、ソースコードや学習データは開かない。技術レポートは「まもなく公開」とされる。
1兆パラメータを500億で動かす仕組み
混合専門家(MoE)は、複数の「専門家」と呼ぶ小さなネットワークを並べ、入力ごとに一部だけを使う構造だ。全部を動かす密なモデルに比べ、同じ計算量で抱えられる知識が多い。1兆は総量で、1回の推論で全部が働くわけではない。
学習は欧州の自社データセンターでゼロから行い、NvidiaのGrace Blackwell GPUを約4000基、約2か月使った。対応言語は160以上で、EUの公用語をすべて含む。前世代のLarge 3は6750億パラメータ、活性410億、H200を3000基の構成だった。
推論の深さを3段階で選べる
推論の量はLow、Medium、Highの3段階で切り替えられる。Lowはこれまでの「推論なし」に代わる設定で、要約や分類のような軽い処理に向く。Mediumは日常的なタスク、Highは最も難しい問題向けで、既定値はHighだ。
既定が最上位なのは、数字を一番強い設定で測るためだと読める。既定のまま使うと待ち時間とコストがかさむ。
コーディング性能は数字でどう見えるか
Mistralの公表によると、Cognitionが社内で使うFrontierCode 2.0で19.7%を記録し、オープンウェイトでは最高になった。同じ表ではDeepSeek V4.1 Flashが19.3%、GLM-5.3が17.8%、Kimi K3が17.3%と続く。生成したコードを保守担当が実際にマージするかを見る基準だ。
ターミナル操作を試すTerminal-Bench 4.0は41%で、プレビュー版から13ポイント上がった。出力トークンは30%減り、同じ品質をより短い出力で出せる。
Artificial AnalysisのCoding Agent Indexでは48%で、首位を争うGLM-5.3とほぼ並ぶ。差が出るのは効率で、1タスクあたりのトークン消費は47%少ない。同じ仕事を半分近い出力で終えるということだ。
すべてで勝っているわけではない。MistralがVentureBeatに示したDeepSWE v1.1は62%で、GLM-5.3の61%とほぼ並ぶ。VentureBeatは測定条件が揃っていないと注記している。
はっきり差がつくのは人間の好みを測るSurge Codeのブラインド比較だ。GLM-5.3に勝率64%、Kimi K3に56%、DeepSeek V4.1 Flashには78%。ところがClaude Opus 5.5には22%しか取れない。オープンウェイトの最上位とクローズドの最先端には、まだ距離がある。
サイバー防御を売り文句にした理由
もう一本の柱がセキュリティだ。Mistralの公表によると、Artificial AnalysisのCyber Indexは51%。この指数は、コードベースから脆弱性を見つけ、再現して確認し、既存の機能を壊さずに修正を当てられるかを見る。
悪意あるネットワーク関連の要求への平均拒否率は96.6%。JailbreakBench、StrongREJECT、AgentHarmのネットワーク系プロンプトで測った値だとされ、自社が試したオープンモデルでは最高だとMistralは主張する。B3では97.1%を防ぎ、プレビュー版の93.3%から改善した。
Mistral自身が認めている課題もある。稼働中の標的へのブラックボックス攻撃は拒否する一方、実際の攻撃に使われる余地は残ると説明し、ガードレールを調整中だ。Orange Cyberdefenseなどの設計パートナーには、ペネトレーションテストやレッドチーム向けのサイバー専用モデルを別に提供する。契約と審査を条件に、自分が所有するか明示的に許可されたシステムだけが対象になる。
防御に強いモデルは攻撃側にも役立つ。拒否率は指標の一つにすぎず、運用の統制が抜ければ意味を持たない。
ライセンスと料金、実際の使いどころ
重みはHugging Faceから取得でき、vLLMやSGLangで自前のサーバーに載せられる。ホスト型ならMistral APIやOpenRouter、NVIDIAのマネージドエンドポイントが使える。
ライセンスはMistral独自のオープンウェイト許諾で、追加条件は1つだけ。モデルをそのままサービスとして外部に出すMaaSの形を取る企業は、別に商用ライセンスが必要になる。自社製品への組み込みや社内利用はこの条件に触れない。
API料金は100万トークンあたり入力0.70ドル、キャッシュ済み入力0.07ドル、出力2.10ドル。
向くのは、コード生成を大量に回したいがデータを外に出せない現場だ。重みを自社のGPUに置けるので、通信に制約のある環境でも動く。最高難度の推論を少数回す用途では、Claude Opus 5.5との差がそのまま体験に出る。






